静かなる退職とは
近年、静かなる退職という言葉が注目を集めています。これは、従業員が業務上の最低限の責任だけを果たし、それ以上の努力や貢献を避ける状態を指します。静かなる退職は、Quiet Quittingの訳語です。アメリカでは、若年層を中心に、ハッスルカルチャー(過剰な努力を美徳とする文化)への反発やメンタルヘルス重視のため、会社や仕事と意図的に境界線を設定するムーブメントを指します。日本では、主に中高年層が静かに意欲を失っていく現象として現れています。
日本の中小企業においては、社員の高齢化が進む中で、こうした静かな離脱が組織の活力を奪う要因となりつつあります。放置すれば、職場の士気低下、若手の離職、業務品質の低下など、組織全体に波及するリスクがあります。
静かなる退職が起きる理由
静かなる退職の主な要因として、以下が挙げられます。
- 頑張っても評価されない、報われないという感覚(諦め)
- 何をどこまでやれば良いか分からない(混乱)
- 不公平だ(不信感)
- 未来が見えない(閉塞感、絶望)
これらの背景から、達成感や責任感よりも「自分を守る」ことが優先されるようになります。
自己防衛 > 達成感、責任感
を意識した時、その人は、心の中で「退職」を決意します。
ブラック企業やパワハラ、モラハラが横行する会社をイメージすると、社員がなぜ自己防衛に走るかがイメージしやすいと思います。そう考えると、静かなる退職は、組織に何らかの行き過ぎたことがある兆候と言えるかもしれません。
静かなる退職への対処法
静かなる退職に直面した際の対応は、以下の通りです。
1. 1on1で話を聞く
まずは、本人と向き合い、現状の認識や不満、悩みを聞き取ることが重要です。リラックスした雰囲気で問いかけることで、心理的安全性を確保し、信頼関係を再構築するきっかけになります。その際、原因を探ろうとすることは、詰問につながりやすいので避けた方がよいでしょう。「話を聞いてもらえた」と社員が感じたことで、事態が好転することもあります。
2. 期待値を再確認する
会社と本人の間に期待値のズレがある場合、本人が何を期待されているかを明確に伝えることが、再活性化の第一歩です。会社が「主体性をもって動いてほしい」と思っていても、社員が「方向性を示してほしい」と感じていることは、よくあります。このような場合、役職や職務に対する期待を改めて言語化することで、自覚と責任感を促すことができます。
3. 役割を見直す
「なぜ、自分がこの仕事をしなければならないのか」と感じることで、社員がやる気を失うケースは少なくありません。このような場合、苦手分野を減らすなど、仕事や役割の再設計を通じて、仕事に取り組みやすくすることで、意欲を取り戻すことがあります。
覚えておいてほしいことは、静かなる退職状態の社員に対して、降格や配置転換、解雇といったハードランディング型の対応は、法的にも実務的にも難しいことです。仮に、その社員の働きが満足がいくものでなかったとしても、最低限の仕事をしている以上、通常、降格や配置転換等の正当な事由とはなりません。能力不足、勤務怠惰の適用には、厳格な法の定めがあります。
静かなる退職への対策は、つまるところ「再活性化」か「断念」の二択です。「再活性化」においては、仕事や責任範囲を見直し、本人がやる気を取り戻すことを促します。「断念」においては、静かに時が過ぎるのを待つだけです。できることは、人事評価に反映するくらいです。いずれを選ぶにせよ、ルールと対話に基づいた判断が求められます。また、業務の見える化や責任の再配分を通じて、他社員への影響を最小限に抑える工夫が必要となります。
まとめ
静かなる退職は、制度や仕組みだけでは解決できない、組織の深層に関わる課題です。即効性のある対応は存在せず、社員のエンゲージメントを高め、静かなる退職を起こさせない、地道な取り組みが必要となります。
もし起こった場合、大切なのは、ルールに基づいたドライな対応です。社員との距離が近い中小企業においては、その社員のこれまでの貢献等を考えるとドライな対応に躊躇するかもしれません。そういう時は、外部の専門家を活用することも有効な対策の一つです。
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