ホフステードの「多文化世界」から見える日本人の姿と日本の職場の問題

終わらない仕事、決まらない会議、いじめや陰口……。

「日本って、どうしてこうなんだろう」。

「おかしいよね」と、ほとんどの人が思っても、なかなか変われない。それが“日本”……。

でも、その“らしさ”は、性格や気質ではなく、その国の文化の反映として説明できます。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードが提唱した「文化の6次元モデル」は、そんな日本社会を知る手掛かりを与えてくれます。

本稿では、まず前半で、ホフステードの理論「多文化世界」を紹介し、国ごとの比較で見た”日本人のクセ”をお話しします。後半は、「多文化世界」に基づいた、国ごとの「暗黙の組織モデル」について説明し、日本の組織、職場の問題に触れていきます。

目次

1. 「多文化世界」とは

ホフステードは、IBMの世界各国の社員データを分析し、国ごとの価値観の傾向を、

  1. 権力格差
  2. 個人主義 or 集団主義
  3. 男性性 or 女性性 (達成志向 or 生活の質志向)
  4. 不確実性の回避
  5. 長期的 or 短期的
  6. 抑制主義 or 快楽主義

の6つの軸で測定しました。

国民性は、個人の性格ではなく“社会全体の傾向”である。そしてそれは、歴史・教育・制度に深く根付いている。

つまり、私たちが感じる「日本人らしさ」は、私たち一人一人の性格とは無関係であり、日本で生活する中で培われたもの、と言うことができます。

2.文化を測る6つの次元

では、ホフステードの6つの軸について、それぞれ見ていきましょう。同時に、日本の評価がどうなのかも説明します。

① 権力格差(中程度)

権力の弱い人たち(子ども、学生、部下)が、権力が強い人(親、教師、上司)との地位の違いを大きいと捉えるか、小さいと捉えるかを表します。日本は中程度です。

  • 権力格差の高い国 東南アジア諸国、中国、インド、ロシア、東欧諸国、中南米諸国、中東諸国、アフリカ諸国、フランス、ポルトガル、ギリシャなど
  • 権力格差の低い国 イスラエル、北欧諸国、アングロサクソン諸国、ドイツなど
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② 個人主義 or 集団主義(中程度)

集団の利害が個人の利害より優先されるのが集団主義、個人の利害が優先されるのが個人主義です。日本は世界全体で見れば、ほぼ中間です。

  • 集団主義の国 中国、東南アジア諸国、中東諸国、中南米諸国、ロシア、ポルトガルなど
  • 個人主義の国 アングロサクソン諸国、北欧諸国、ドイツ、フランスなど
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男性性(非常に高い)

競争に勝つこと、成功・地位に重きを置くか(男性性)、生活の質に重きを置くか(女性性)を示す尺度です。日本は、男性性が突出して高い傾向にあります。

  • 男性性が高い国 日本、ハンガリー、オーストリア、ベネズエラ、スイス、メキシコ、中国、ドイツ、英国、コロンビア、米国、オーストラリア、ニュージーランド、インドなど
  • 女性性が高い国 スウェーデン、デンマーク、オランダ、、ノルウェー、フィンランド、コスタリカ、チリ、ポルトガル、ロシア、タイ、韓国、ベトナムなど
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④ 不確実性の回避

不確実なこと、曖昧なこと、未知の状況に対して、脅威を感じるか感じないかを表すものです。日本は突出して高い傾向にあります。

  • 不確実性の回避度が高い国 中東諸国、中南米諸国、ポルトガル、ベルギー、ロシア、ポーランド、日本、ルーマニア、フランス、ドイツ、韓国、台湾など
  • 不確実性の回避度が低い国 シンガポール、デンマーク、スウェーデン、ベトナム、中国、英国、米国、マレーシア、インド、インドネシアなど
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⑤ 長期志向(非常に高い)

短期志向は目の前の事象にフォーカスするのに対し、長期志向は、全体像を把握してから物事に取りかかる傾向があります。中国・台湾・韓国・日本が突出して高い傾向にあります。

  • 長期志向の国 韓国、台湾、日本、中国、シンガポール、ドイツ、スイスなど
  • 短期志向の国 中東諸国、アフリカ諸国、中南米諸国、オーストラリア、アイルランド、米国、ノルウェー、デンマークなど
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快楽主義(低い=抑制的)

人間の自然な欲求を自由に満たそうとするか、厳しい社会規範によって欲求の充足を制限すべきと考えるかを示します。日本は、どちらかといえば抑制的な方に属します。

  • 快楽主義の国 メキシコ、ベネズエラ、ニュージーランド、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、英国、カナダ、米国、ナイジェリア、南アフリカなど
  • 抑制的な国 エジプト、パキスタン、ロシア、東欧諸国、イラク、インド、中国など
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日本の特色は、他のアジア諸国に比べ権力格差と個人主義が平均的だが、男性性と不確実性回避の傾向が極めて高い、とまとめることができます。

次に、ホフステードの6次元モデルの組み合わせを「組織モデル」にまとめた「6つのメンタルイメージ」を紹介します。

(本章のグラフは、すべて、)

3.多文化世界から見える組織モデル

国ごとの価値観の違いは、職場の組織構造や人間関係の違いとして現れます。オランダの経営コンサルタント、ハヴ・ヴルステン氏は、ホフステードの6次元モデルを元に、国によって人々が想起する暗黙の組織モデルを「6つのメンタルイメージ」として整理しました。 この、「6つのメンタルイメージ」について簡単に解説します。ちなみに、日本は、どこにも当てはまらないとされています。

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「CQ 経営戦略としての異文化適応力(JMAM)」を元に筆者が作成

  1. 油の効いた機械

常に秩序を求め、規則正しく物事が進むことを好みます。従業員は、自分を「組織を効率的に運営するための歯車の一つ」と考え、組織のために何をすべきかを完璧に理解しようとします。リーダーの命令が理解できなければ、徹底的に質問します。

  1. コンテスト

常に「勝つこと」が求められ、成果で評価される職場です。従業員は、自分の能力をアピールし、他者との差別化を意識しながら働きます。リーダーは、明確な目標と報酬を提示し、「やるか・やらないか」をはっきりさせることで組織を動かします。

  1. ネットワーク

フラットな関係性と対話を重んじる職場です。従業員は、自分の意見を持ちながらも、周囲とのつながりや合意形成を大切にします。リーダーは、命令するというよりも、場を整え、メンバー同士の対話を促す「ファシリテーター」のような存在になります。

  1. 人間のピラミッド はっきりとした上下関係があり、「上が決め、下が動く」構造が前提の職場です。従業員は、自分のポジションと役割を意識し、上位者の意向をくみ取りながら行動します。リーダーは、強い存在感を持ち、方向性を示し、部下に対して責任を負うことが期待されます。
  2. 太陽系

中心に強い権威(太陽)のような存在があり、その周りを専門家たち(惑星)が回るような職場です。従業員は、自分の専門性に誇りを持ちつつも、最終決定は「中心」に委ねられていることを理解しています。リーダーは、高い知識と権威を背景に、全体のバランスを取りながら意思決定を行います。

  1. 家族

組織が「家族」のように感じられ、血縁に近い忠誠心や情緒的なつながりが重視される職場です。従業員は「この人についていきたい」と思えるリーダーとの関係を大切にし、その期待に応えようとします。リーダーは、父親や年長者のように、メンバーを守り、導く存在として見られます。

4.日本の組織モデルは?

冒頭で述べたとおり、ハヴ・ヴルステン氏は、日本は「6つのメンタルイメージ」のどれにも当てはまらないと考え、日本の暗黙の組織モデルには言及していません。

ネットで調べると、7つめのメンタルイメージとして「クラフトマン」を挙げ、ここに日本を分類しているものがあります。

これは、ホフステードの6次元モデルの「高い男性性と不確実性の回避傾向から、「目標達成への執着」「働くために生きる」イメージを表したものと思います。Made in Japanが世界を席巻した時代を思い起こせば、当てはまりそうな気もしますが、それは、外国から見た日本であって、日本人の現場の感覚とは少し違うように思います。

ここからは私見です。

「日本の暗黙の組織モデル」と言われて、私の頭に浮かぶのは、**日本の「学校」**という組織モデルです。

学校では、

  • 先生の指示をよく聞き
  • クラスの和を乱さず
  • 成果よりも「評価」や「態度」が重視され
  • みんなで同じ方向を向く

ことが求められます

この構造は、そのまま日本の企業文化に受け継がれています。従業員は「クラスの一員」として振る舞い、上司は「先生」のように秩序を保ちながら全体を導く。評価は、“頑張り”や“姿勢”といった曖昧な基準で行われることも多い。この「学校モデル」は、社会の安定性や協調性を支えてきた反面、日本の職場の抱える問題の根っこにもなっていると思います。

ここまで読んでいただいて、「日本って、どうしてこうなんだろう」の正体が、なんとなく見えたのではと思います。社会全体を変えることは容易ではありませんが、よい方向に向かうためのヒントになれば幸いです。

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